無塩せきガソリン

SALT-FREE GASOLINE

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ファミリーマートでおきたこと


近所で長年くすんでいた喫茶店が潰れて更地になったかと思ったら直方体が建ちあがり、それはファミリーマートになった。

外壁や電飾は見るからにフレッシュで、彩度の高い緑・白・青はロードサイドで不気味に映えている。放たれるLEDは田園風景に突如宇宙船が出現したかと見紛う。

田舎のコンビニなのでご多分に漏れずオープンセールなどを大々的にやるのだが、そこで集まった客にガラガラなどをさせ、大当たり〜商品はこちらでございます〜とレジからの死角に誘導されるとそこにはエイリアンや物体X的なクリーチャーがいて丸呑みにされるのか、あるいはプレデターのような知的生物が開発した新兵器の実験台にされて分子レベルまで分解されるのか、などと考えていると外れのアメ玉をもらうので舌でコロコロさせながら帰路につく。

 

主要な交通網を抑えた点でコンビニオーナーかエリアマネージャーかの目論見はドンピシャに当たっており、そのファミリーマートはいつ行ってもそこそこ繁盛していた。だが想定を超えた数の客に、コンビニ側が対応できないでいるようでもあった。

 

平日のお昼時にしょっちゅう買い物に行くが、駐車場は隅まで車で埋まっている。まともな白線の内に駐車できたためしがない。レジには常に長い行列ができている。昼休みの時間を犠牲にして並ばなければ昼食にはありつけない。

その日も100円セールのおにぎりを2つ、アイスコーヒーのカップを1つ、あとフライものでも頼むかな、などと考えながら店内をぐるりと廻ると、既に長蛇の列。人影の向こうにバーコードを読み取る3人の新人アルバイトが見える。

定年後、家でダラダラワイドショーを見ていると折り合いの悪い妻から邪険に扱われ、かといって時間を湯水に捨てるような娯楽に浸ることも忘れてしまった、ただただ会社にとって模範的な生き方をしてきただけの、初老と思しき男性。

空港で家族に見送られながら日本行きのエコノミーに座ったのは遠い昔、言葉が通じないだけで奇異の目線で見られ、モラトリアムの豊かな感情は拗れに拗れてしまい鬱屈した思いを一人ふつふつと滾らせながら今に見てろ、調子に乗れるのは今のうちだけだからな、と真面目な外国人を演じる東南アジアからやってきた留学生。

あと几帳面そうな中年女性。

以上の3ピースでレジを固めている。

この新人アルバイトたちがとにかく丁寧に、いらっしゃいませ。ありがとうございました。Tポイントカードはお持ちですか?お弁当はあたためますか?またおこしください。よろしければTポイントカードおつくりしましょうか?画面のタッチをよろしくおねがいします。雑誌と豆腐は同じ袋でよろしかったでしょうか?こちらに記入お願いします。お箸とスプーンはどちらをご利用でしょうか?申し訳ありませんがTポイントカードがないとこの商品を購入する権利がございません。またのご利用お待ち申し上げております。などと紋切り型の応対をいちいちしっかりやっているので列は一向に進まない。

 

そのうち業を煮やしたラッパズボンの若者がカゴいっぱいに盛ったカップラーメンをその場で剥き出し、かやくなどを開け、お湯を入れ始める。初老の男性店員が、「お客様商品を開けるのは購入のあとでお願いします…」など注意するが、若者は「おっちゃん、俺たち急いでんの。湯ぐらい先に入れさせてよ。大丈夫大丈夫、後でちゃんと払うよ」などと言い手を止めない。すると、スーツを着たサラリーマンもその場でビニールをやおら破り、菓子パンを齧り出す。口いっぱいにパンを頬張りながらサラリーマンが言う。「大丈夫大丈夫、後で払うよ」ブレザーの高校生がリプトンにストローを刺しチューチュー吸う。「大丈夫大丈夫、後で払うよ」
フラストレーションが充満したコンビニ内は一斉に立ち食いフードコートと化し、「後で」の合言葉にならって棚に並んだ商品をそのまま口に運ぶ。

どうにでもなれという思いはすぐさま伝播しエスカレートする。中年女性店員に煙草の銘柄を伝えそこねたツーブロックの営業マンは「イイっす、自分で取るっす」とレジを革靴で乗り越え、メビウスのメンソールをふた箱ポケットに収める。留学生店員に注文を伝えられない太った客がファミチキを手づかみでショーケースから引きずり出す。肉まんも手づかみでいく。元コンビニ店員が初老の男性店員からバーコードリーダーをひったくり、ものすごい勢いで会計を済ませていく。レジ前で騒ぐ大人を尻目に、小学生が匍匐前進でおかし売り場まで潜り込み、うまい棒をかじる。

 

狂気は徐々に店外に漏れ出し、臨界点に達したところでまだ曇りのない窓ガラスをぶち破ってプリウスが突っ込んでくる。始末の悪そうなババアがドアを蹴破って出てくる。ブレーキの位置がおかしいわよッ。なんなのよこの車ッ。ユーザーエクスペリエンスのなんたるかがまるでワカッてないわねッ。

プリウスの登場で場内は一気に盛り上がる。初老の男性店員はレジを放り出し、奥の冷蔵庫からロング缶チューハイを取り出し、勢いよく振りながら封を開ける。炭酸で圧縮されたストロングゼロが噴射され、店内に降り注ぐ。

東南アジアの留学生は迫りくる客を威嚇しながら、沸騰しているおでんを箸でつつく。大根・がんも・牛串・ロールキャベツ・ちくわぶなどをポケットに次々放り込んでいく。最後に真っ白なはんぺんを口に含み、群衆の頭を踏みレジから逃げていく。

中年女性は一度バックヤードに引っ込んだかと思うと、消化器を持ってレジの前に再び現れる。「お友達に挨拶しな!」中年女性が引き金を引く。一瞬で粉末が視界を覆う。ストロングゼロが効いている客たちは突然の演出に嬌声をあげて喜ぶ。中年女性は負けじとカラーボールで応戦する。コンビニがパナップになる。

混乱に乗じてガラスケースが叩き割られテレビが盗まれる。ひしゃげたATMが金をズバズバ吐き出しやがて沈黙する。騒ぎを聞きつけたパトカーがサイレンを鳴らすが逆に群衆に取り囲まれてしまう。「おい、もうちょっと右来て、右」「こっちあと二人ほど欲しいっす」「腰気をつけろよ。いわすなよ」「じゃ、いいか?せーの」パトカーは亀のようにひっくり返される。
その辺を徘徊するのがライフワークの老人がやってきてうわ言を叫び続ける。「だからワシは帝京魂を忘れるなと言ったんじゃ!」
パトカーから命からがら這い出た警官は両手を振りながら絶叫する。「みなさん!落ち着いて!」その警官の腰のホルスターからするりと拳銃を抜き取ったのはすでに限界の居酒屋店長。乾いた銃声と共に自分の頭を撃ち抜いた。

自衛隊が催涙ガスを投下するまで阿鼻叫喚は止まらず、ものの1時間ほどで1人の死者、10人の重軽傷者、5人の逮捕者が出た。

私は失敬したモーニングボスを片手に煙草を吸いながら一部始終を見ていた。それで思い出したけどセブンって灰皿ないとこ多いよね。マジムカつくわ。

 

※ファミリーマートでは2019年冬より「レジ横おでん」から「レンチンおでん」に移行しておりますが、執筆された当時の社会状況を示すため、そのまま掲載しました。