無塩せきガソリン

SALT-FREE GASOLINE

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生活に寄り添うヘアスタイル


かつて美容室で髪を切られながら店長にアメリカのサーファーの話をされた。店長が一番好きな髪型は、昔カリフォルニアを旅行している時に見た、西海岸の強い日差しと潮風に晒されて少し傷んだ髪の毛がポマードで撫で付けられてまとまってる状態なのだと。目を輝かせながらサーフィンとポマードの関連性を説く店長の髪は、海藻大国ジャパンといった具合に黒々と艶を放っていた。人間なんか所詮無いものねだりだよな。ここには太陽も、オープンカーも、ビーチに行ける余裕もない。

 

とはいえ店長が本当に言いたかったのはその状況をまるまるコピーすることではなくて、一種のカリフォルニア精神であり、髪が傷むような背景であり、鏡とか気にせず適当に撫で付けるだけという姿勢であり、要はバイブスの話なのだと今になって思う。

髪型において、エンターテイナーでもないのに毎日砂糖菓子のように固める必要はない。かといって名前がつけられないような中途半端な髪型を維持できるのは、よっぽど豪胆な精神力の持ち主だけだ。

適度な加減の髪型というものが多分人それぞれあると思う。

 

ウェーボ‐デザインキューブ

最近はもっぱら髪をグロスで撫で付けている。グロスは、グリースや水性ポマードなどとも呼ばれるており、要はゆるいワックスである。ホールド力が弱く、髪にうねりや艶を出すような油。

俺はなんでもない日のスタイリングはだいたいこれだけだ。

ウェーボは髪馴染みもよく、洗ってもベタつかず、よく落ちる。ブランドで言えばデミ、会社で言えば日華化学は界面活性の分野でそれなりの値段と高い品質を両立しており、チョーオシャレってわけではないけど使い勝手の良い商品が多い。シャンプーとかもね。

 

 

 

グロスのつけ方

スプレーやジェルのように髪をコーティングしたり、ねじったり絡めたりしてボリュームを出すようなワックスと違い、単に油分を髪に塗っていくという感じ。鏡の前で最終型にもっていく必要はないため、朝の忙しい時間でも何も考えずにすぐスタイリングできる

 

1.髪の毛を水が滴るくらい濡らし、タオルで軽く拭き上げる。

2.灰皿に置いておいたタバコを咥え直し、グロスの蓋を開ける。

3.髪の毛の長さや毛髪の量に合わせてグロスを指ですくう。ショートヘアなら一本、ミディアムヘアなら二本。

4.両手の指先でよく伸ばし、髪の毛をすり合わせるようにして油分を入れていく。煙が目に染みる。

5.手櫛で流れを整え、耳周りやうなじなんかの髪を櫛で整える。火にかけておいた湯が湧くのでタバコをもみ消しコーヒーを淹れる。

 

朝にグロスを塗ってしまえさえすれば、髪型が崩れてもかき上げてなでつければある程度元に戻る。

手についた油分はジーンズにこすりつける。

滲んだ汗と油分を含んだジーンズは僅かな光沢を放ち妖しいドレープを揺蕩え肌に張り付く。強い日差しとの相性は、最悪である。

 

髪型で遊ぶこと

あと髪型で遊ぶというのはやっぱり学生だったり、仕事柄だったり、そういうものに依存している特権のような気もする。

大方のサラリーマンは真面目にやらなきゃいけないから、散髪でもしようものなら「毛先で遊んでるんじゃないッ」などと上司から恫喝されるだろう。9割9分の会社は社訓として本田豊田松下堀江が標榜している”ノルマ・オア・デス”を掲げており、営業マンには寸分の心のゆとりもない。髪を切る暇があったら営業に出なきゃいけないし、散髪代があるなら自社株を買い支えるのがエリートサラリーマンの宿命だ。今日もサラリーマンの髪はパワーでハラスメントを撫で付けられ、ビッチリと七三に決まっている。

一方公務員は常に厳戒態勢の相互監視下に置かれ髪型をチェックされている。神戸市の男性職員は2年間で34回の散髪を行っていたことが匿名の通報により明らかになった。一回あたりの散髪で平均5.93cm短くなっていたという。市は謝罪会見を開き、この事実を受け止め二度と散髪が職員に横行しないよう厳しく対処すると発表した。市民からは『髪が生えなくなった市民に申し訳ないと思わないのか』『民間ならまだしも公務員だからな』『一回一回は短くても、トータルで2m近い頭髪になる。到底許すことはできない』などの声が上がっている。職員は訓告処分され、依願退職していった。

 

そういう風潮もあるので常にフレッシュな髪型をキープすることは難しい。それにジェルとかスプレーで髪がパリパリになるのって俺あんま好きじゃないんだよね。ああいうのはなんか人が大勢集まったりするパーティーとかそういうときだけでいいや。でも人が集まる場所に行ったのも去年1年でばあちゃんの葬式くらいしかなかったし、つまり俺にはそういう機会は訪れない。

あと金もそんなにかけたくねえ。

そこそこでいいよ、俺は。