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服の話


かつて登山を始めるにあたって、普通の服じゃない登山用のアイテムを揃える必要があった。長いトレイルを快適に過ごしたり、雪山でビバークをするためには速乾ポリエステルと防水透湿のゴアテックスが必要だった。少ない資金で最大のパフォーマンスを引き出すために、メーカーが提示するスペック、想定する用途、ユーザーの感想を吟味するようになった。そうした癖が徐々に山用のアイテムだけでなく普段の買い物にも及んでいき、服を買う際の価値基準が機能性や素材、ディティールなんかの方向性に移っていった。

 

それまでは「別に普通のカッコしときゃええやろ」というスタンスの元、適当に雑誌を広げて載っているスタイルをファストファッションで雑にコピーするということをしていたけど、次第に雑誌のファッション解説、トレンド解説みたいなものを見なくなっていった。”合わせる”とか”着こなし”みたいな意識は薄れ、トレンド感みたいな判断材料はすっかりなくなってしまった。人から見てオシャレかどうかなんてわりとどうでも良くて、異常性を伴わない範囲で自分の好き勝手にやるようになった。ジーンズを洗っていないと言うとたまに異常ととられることがあるけど。知るか。

 

ゴキゲンに服を着るために

登山をしているとたまに「俺はカネを払うことを悪だと思っているッ!!」と豪語する人と会う。「メーカーはボッタクリだッ!!」俺が直近で会った彼は10年前に買ったというボロボロのウェアを着ていたが、その辺のハイカーなんかよりもよっぽどハイレベルな登山経歴を持っていた。彼の言うことには、高いウェアも数ヶ月すればセールになるし、数年経てば廉価コピー品がいくらでも出回るし、逆にコピー品が出回らないということはそこまで価値のないアイテムなんだそうだ。「一流メーカーが出す服を正規の値段で買っているやつはバカだッ!!コピー品を買うのが勝ち組なんだッ!!」

 

コピーが製品を完全に模倣できているならいいけど、大抵は形だけ真似してみましたみたいなものだったりする。素材感やディティールはもちろん、操作感・ギミックが全然違う。形が一緒でも中身が別物なのだ。俺は外っ面なんてどうでもいいからしっかりした中身が欲しい。

 

ポケットの出し入れ、ボタンの開き方、生地の集まり方、始末の仕方、体を動かしたときの感触、使用感の出方、傷の入り方、メーカーのアフターケア、そして広告なんかのブランディングに至るまで、買った瞬間から手放す瞬間まで服にはゴキゲンに袖を通したい。気持ちよく操作していたい。楽しいギミックを日々感じていたい。それは服だけじゃなくて日用品とか全てに通じることでもある。「これもだいぶ傷んできたけどまだ使えるし捨てるのもなあ…」みたいな葛藤はなるべくしたくない。

 

俺は服に対してはそういう基準で選んでいるんだけど、どうも周りを見渡すと同じスタンスなのに全く別のアプローチを取る人もいるようだ。ファッションレンタル、ZOZOおまかせ定期便なんかのサービスは、日々を新しい服でパリッとキメてゴキゲンに過ごしたいとかそういうニーズもあるのだろう。いちいちファッション解説、トレンド解説を読み込むのが億劫になるのもよくわかる。自分で服を選ぶのは、もはや面倒事なのだ。

 

今の流れを見る限り今後の”ファッション”は、委託によって大多数の人が好むスタイルを手に入れるか、自分勝手なスタイルを楽しむかの大きく二択になっていくのだろう。カネを払うことを悪だと思っている人にも優しい選択肢が与えられるといいのだが…。