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ナポレオン・ダイナマイト/15歳、アルマの恋愛妄想

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基本的に我々はステレオタイプを持っている。ステレオタイプとは、例えばアメリカでは恰幅のいいおっちゃんがピックアップを乗り回しているとか、ノルウェーでは誰もが自然にうまく溶け込んだ優雅な暮らしをしているとかみたいに、イメージや目立つ人の印象を特定の集団全てに当てはめて考えることである。か弱いアメリカ人や都会が好きなノルウェー人が「お前何も知らんくせに上に立ったつもりでベラベラしゃべんな」「誰もがそうじゃねえよバカにしてんのか」と不愉快な気持ちになるのは当然である。

そういうステレオタイプを持ってしまうのはしょうがない。だけどこれを人前で披露したりすることはあまり喜ばれたものじゃないし、多くの文化圏では嫌がられる。そして、日本人はこのステレオタイプで遊ぶのが大好きなので、すごく厄介である。(これもまたステレオタイプだぞ)

国民性ジョークとか、民族や部族を下に見てたりとか、自分たちとちょっとでも違う方法を取っているのを見てバカだと決めつけたりとか。こういう話は本当に気兼ねなく親しい間柄で通用する下品な冗談だ。旅行でたまたま相席になった人とかに話すと、それはユーモアとは決して取られず頭がおかしな人だと思われる。無意識な発言なら不愉快にさせてしまうこともあるだろう。本来はそれくらい気を使わなければならないのだ。 

 

田舎は目立たないけど確かにある

今回紹介する2本の映画、『ナポレオン・ダイナマイト』と『15歳、アルマの恋愛妄想』の舞台は田舎だ。いわゆるアメリカやノルウェーのステレオタイプが全然適用されないところが舞台なのだ。国は違えど、田舎ということで日本の地方と共通する悩みや笑いどころもあるし、田舎に住んでいた人ならではの「わかるわ〜」というポイントも多くある。

しかしこれらの映画のような形でアメリカやノルウェーの田舎がフォーカスされることはこと日本においてはあまりないし、馴染みなどもほぼない。でも、ただひたすらにリアルなのだ。

 

ナポレオン・ダイナマイト』と『15歳、アルマの恋愛妄想』は、共に主人公が孤軍奮闘しながら自分のスジを通す映画だ。ダサくてウザくて最悪な自分の生まれ故郷で、それでも自分なりに生きているんだと言うメッセージを強く放っている。

 

ナポレオン・ダイナマイト 

ナポレオン・ダイナマイト (字幕版)
 

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2004年公開。『バス男』という邦題でビデオスルーされ、多くの人が「映画業界って俺らのことバカにしてんのかな?」と思い始める契機となったことで有名。

 

ロッキー的な構造といえばいいのか...ナポレオン・ダイナマイトという名前の主人公の周りで起きるちょっとした出来事の話だ。ダイナミックな話運びや大きな場面展開はほぼない。つまりスーパーヒーローは出ないし、大胆な恋愛なんかもないし、わかりやすい爆笑コメディでもない。

家族や友人は変な奴らばかり。いい歳して無職の兄だったり、入れなかったアメフトチームの妄想ばかりしている怪しい叔父だったり、カーストを無視して学級委員長に立候補する転校生だったり。主人公も、毎日同じムーンブーツを履いていたり劇中で妙なTシャツを着ることになったりと、とにかく見た目がダサい。

ただ、対象的に描かれるジョック派閥の生徒もダサいというのが田舎の悲しい所。始めから終わりまでスタイリッシュな場面が一秒もない。

 

じゃあ、どうしようもない映画なのかというとそれは違う。ナポレオンはダサいながらに、周りなんか気にせず自分のスジをきっちり通していく。それは、傍から見たらイタくて見れたもんじゃないかもしれないけど、理解者は少なからず生まれる。

ナポレオンはキョロキョロ周りを気にしたりせず、強いものに媚びへつらったりせず、友達の野望は勝算がなくとも応援し、自分が置かれている環境に文句一つ言わない、イイやつなのだ。

これが砂漠をバックにしたギラギラの明るい光の中で撮られているので妙な爽快感を生む。

見た目がダサいと先述したけど、ファッション的にも大事なのは見た目じゃなくて中身だ。中に入っている人間がしっかりしているから、チグハグなファッションが意味を持ち始める。どれだけダサいアイテムを身に着けていても、ナポレオンはクールなのだ。

これはファイトクラブのタイラーやビッグ・リボウスキのデュードにも同じことが言えるね。

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ナポレオン・ダイナマイトは低予算映画だしCGやエグい描写もなく刺激はかなり弱めだけど、画作りやカットなんかは見ていて楽しかったし、何も考えずに眺めることができて最後になんとなくいい気分になる、ヌルくていい映画だ。

 

15歳、アルマの恋愛妄想

 

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 一方15歳、アルマの恋愛妄想』は予告やパッケージからして若い女の子のいやらしい感じを隠そうともしないし、ド頭から主人公の自慰シーンでぶちかましてくる。そういうのに抵抗があったり偏見があったりする人は多いだろう。「こんなロリコン向けの低俗そうな映画にまともなテーマやメッセージが本当にあるの?」と。

映画自体は『ナポレオン〜』と同じように、アルマの周りの出来事が描かれている構造だ。思春期という安易なワードでくくるのは良くないと思うので一つ一つ言っていくと、友人関係の面倒臭さ、好きな相手への距離のとり方、田舎でネットもない時期の未来への閉塞感、そして、コントロールがきかない性欲についてだ。

これらが少し暗めのノルウェーの山・湖・北欧建築と相まって妙な息苦しさを生む。

でも、要はちょっとしたイジメの話なのに出来事のマヌケさのおかげで全然悲壮感がない。相対するのがノルウェーの荘厳な自然環境なのでどうしても人間がちっぽけに見えてしまうということもあるだろう。むしろ音楽やカット割り、小道具のお陰でちょっとしたポップささえ感じるのだ。

そしてこれは主人公アルマの力も大きい。

 

色々嫌になることがあっても、自分なりに解決方法を見出し実行するんだけど、それは大体ダサくてイタい。でもやっぱり見ている側は応援してしまうのだ。

アルマ自体もスジを通そうとする姿勢が強くて、それは肩をいからせてガニ股気味な歩き方からも伺える。

北欧の自然に囲まれているからってフェールラーベンやクレッタルムーセンを着ておとぎ話のような生活をしているわけではない。アディダスのジャケットと妙なプリントTシャツのチグハグな感じが田舎のリアルなのだ。

そんなダサい歩き方やダサい格好が超キュートなんだよね。中の人間が魅力的だからファッションが意味を持つということだ。

 

がんばれ

日本でも同様に、田舎の閉塞した人間関係やコミュニティで理解が得られなかったり、自分を出せずにいて燻っているティーンは多いと思う。俺もかなりそんなところがあったし。映画のようにうまくいくことはほぼ無いけれど、この『ナポレオン〜』と『アルマ〜』から得られることは多いはずだ。それは全校生徒の前でバンド演奏とか、能力バトルに巻き込まれるとか形骸化された表現ではなくて。

同じように、これから先そういう年齢の少年少女と出会う可能性を秘めた大人にも、中学生。高校生の頃の自分を見つめ直して、大人の物差しで安易に計測するのを控えたほうがいいと思う。彼らのほうがよっぽど真実に近いところにいる、と俺は思うのだ。